循環器疾患とは?
■循環器疾患とは?
「循環器内科って何を診る科ですか?」と良く聞かれます。一度でも心臓病を患った患者さんであれば、ある程度イメージを持っておられると思いますが、一般的には「謎の科」と思われているようです。「循環器内科」を、「心臓・血管内科」と言い換えれば少し具体化するでしょうか。
そう、「全身に血液を"循環"させるために必要な"臓器"」を対象にする科なのです。
ポンプの働きをする心臓、血液を各臓器に分配(動脈)し、回収(静脈)するパイプである血管が主な治療の対象です。けれども奥はとっても深いのです…。
●動脈硬化の原因と生活集患病
動脈は臓器に血液を分配するただのパイプではありません。心臓が収縮して血液が送り込まれたら、それを柔軟に受け止めて拡張し、心臓が拡張して血液が送り込まれないときは、弾性力で収縮して末梢に
血液を分配します。これを動脈の"ふいご"機能と呼びます。この血管の機能はとても大切で、血圧を適切な値に保ち、心臓に過剰な負荷をかけないように調節してくれています。ところが、動脈硬化によって、血管が硬くなると、この"ふいご"機能が失われ、心臓から血液が送り込まれても血管は拡張出来ず、結果として収縮期血圧(上の血圧)は上昇し、心臓に負担がかかります。さらに、心臓の拡張期に血管は硬くて収縮出来ず、拡張期血圧(下の血圧)は低下し、臓器への血流量が低下して臓器虚血を招きます。
血管が硬くなる動脈硬化の現れ方は、初期は血管の弾性が失われることで始まりますが、進行すると、血液の通る内腔が目詰まり(血管狭窄や閉塞)したり、血管が瘤のように膨らんだり(動脈瘤)することもあります。また、後述しますが、心臓の弁に動脈硬化が進行すると、弁の開放が制限(弁狭窄症)されたり、弁の閉鎖が障害(弁閉鎖不全症、弁逆流症)されたりします。動脈硬化の原因(危険因子)として、生活習慣病である、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)、喫煙、ストレス、肥満、慢性的な睡眠不足、過食などが知られています。これらをしっかりとコントロールすることで、狭心症や心筋梗塞だけではなく、脳卒中も予防することができます。
血圧は、原則として、いつ測定しても、上は130mmHg未満、下は85mmHg未満が基準値です。年齢や既往症により目標値は若干異なります。高血圧症の隠れた原因として、不眠症や睡眠時無呼吸症候群があり、いびきや居眠りが多いかた、肥満のかたは、まずは睡眠時無呼吸症候群の簡易検査をお勧めします。
血糖は、空腹時で126mg/dl未満、食後でも200mg/dl未満、HbA1cは、新しい基準で6.4%以下、古い基準で6.0%以下が正常です。糖尿病は早期から介入したほうが経過が良好です。コレステロール(脂質)に関しては、LDL-C(悪玉コレステロール)は140mg/dl未満が正常、HDL-C(善玉コレステロール)は40mg/dl以上が正常、TG(中性脂肪)は150mg/dl未満が正常値とされています。循環器内科医の立場では、LDL-C(悪玉コレステロール)の値は、程度はありますが、低いほど安心と考えます。
最近、食事中の脂肪酸の質に注目し、イコサペント酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)といった主に魚介類に多く含まれる脂質が虚血性心疾患等の発症予防に対して高い効果があることがわかってきました。特にEPAは血管に作用し、動脈硬化の進展抑制に大きく関与していると言われています。EPAとは対照的に、主に牛肉や豚肉などに多く含まれる脂質にアラキドン酸(AA)があります。AAは、過剰になると動脈硬化促進因子になることが知られています。この、EPAとAAはどちらも人類には欠かせない必須脂肪酸でありますが、体内では合成されず、経口摂取のみにて体内に取り込まれる脂肪酸です。最近は食文化の欧米化(ファーストフードなど)により、このEPAとAAのバランスが崩れ、AAに偏り、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化性疾患の原因になることがわかってきました。
当院では、採血によりEPAとAAの比率を測定し、食生活改善のアドバイスを行うことが出来ます。
喫煙は、すみやかに決意をしてやめるべきです。困難な場合は、医師と二人三脚で禁煙補助薬(チャンピックス®)なども 利用出来ます。喫煙の害については、「わかっちゃいるけど…」ですよね。それでも敢えて言わせてもらえば、肺気腫や肺癌などの呼吸器疾患や口腔、喉頭、食道、胃、膀胱などの癌や白血病の発症率を高める他、喫煙による一酸化炭素や活性酸素の発生により、血管壁を傷害します。
ストレスは、誰にでもあるものですが、受け止め方を間違えれば、上記全ての危険因子を上回るリスクになり得ます。交感神経が常に活性化した状態(心臓や血管に常にムチを打っている状態)にあるからです。私は、この部分を解消してさし上げるのも医師の仕事と心得ています。
当院では、以下の方法で全身の動脈硬化の程度判定を行うことが出来ます。
下肢の血圧を上肢の血圧と比較することで、足の動脈硬化の程度を診断する検査(ABI検査)
血管の伸展性(硬さ)を脈波伝播速度で判定する検査(baPWV検査)
脳梗塞の原因になる、頸動脈の動脈硬化の程度を診る検査(頸動脈エコー検査)
運動負荷により冠動脈の動脈硬化の可能性を診る検査(運動負荷心電図検査)
高感度CRP、アディポネクチン、ホモシステインなど動脈硬化の指標となる採血検査(自費検査)
●虚血性心疾患とは・・・
臓という筋肉の塊が、休むことなく働き続けるためには、栄養の絶え間のない供給が必要です。
その栄養を供給している血管を、冠状動脈と呼びます。エンジンにガソリンを供給しているとても大切なパイプですね。この血管が動脈硬化によって目詰まりを起こしかけたらどうでしょう?
運動中に胸痛や胸部圧迫感を自覚するようになります。これが、背中や肩、くび、歯の痛みであることがあります。これが狭心症です。この時点で、すみやかに循環器専門医を受診し、医師の診断を受けるべきです。
栄養不足に陥った心臓の筋肉は、十分な仕事をすることが出来なくなり、ポンプの機能が低下し、不整脈の原因にもなります。血管が完全に詰まってしまったら、安静時にも20分以上持続する胸痛が出現し、肩や背中、頚部などへの放散痛を伴うこともあります。これが心筋梗塞です。
一方、安静時、特に就寝中や強いストレスを受けた後に狭心症がおこることがあります。喫煙者やアルコール飲酒後に多い傾向がありますが、不安感の強い方にも生じることがあります。これは、冠状動脈が痙攣をおこすことで心臓の筋肉が血液不足に陥り、悲鳴をあげた状態です。これが冠攣縮性狭心症です。動脈硬化とは無関係に生じることもあります。専門医の診断により、すみやかな対応が必要です。
これらの冠状動脈に生じる疾患を総称して、虚血性心疾患と呼びます。
●脈の乱れについて
心臓が正常に作動するためには、適切な心拍数と規則正しいリズムが必要です。心拍は極端に遅すぎても(徐脈)ダメですし、速すぎても(頻脈)いけません。若い人や、マラソンや競技スポーツをしているかたは、除脈であることが多いですが、それ以外の方で、極端に徐脈傾向が強く、めまい、ふらつき、気分不快、失神、むくみなどの症状がある場合は、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈の可能性があり、すみやかに専門医を受診する必要があります。
頻脈による動悸症状が、特に誘因(運動、精神的な動揺など)なく出現する場合も、精密検査が必要です。貧血、発熱、脱水、甲状腺機能亢進症、栄養不足など、原因を治療すれば改善できるもの(洞性頻脈)や、専門的な治療が必要な頻拍性不整脈(発作性上室性頻拍症、心房細動、心房粗動など)があります。
脈がとぶという症状の場合、多くが期外収縮といって、脈拍の規則性が突如失われて、"しゃっくり"のように不意に強く脈打つ現象ですが、症状の強さや、期外収縮が心臓のどこから発生しているのか、どのくらいの出現頻度かなどをホルター心電図検査などで調べてみる必要があります。また、背景に基礎心疾患がなければ、安心出来る場合も多く、心臓超音波検査で心臓の機能を評価します。
不整脈がおきて、心拍が大きく乱れると、心臓から駆出される血液が少なくなってしまいます。動悸、脈が飛ぶ、めまい、ふらつき、気分不快、失神などの症状のあるかたは、一度、心電図検査をお勧めします。またホルター心電図検査を行うと、一日の心拍数の変化や不整脈がどの時間帯で出現しているかなどを知ることができ、治療の必要性やタイミング、重症度などを知ることができて有用です。
特に中高年者で頻度が多く、注意すべき不整脈として、心房細動があります。この不整脈は、高血圧、高齢、心臓疾患の既往、ストレスなどによって頻度が増えます。症状は多彩で、脈が乱れる、胸がそわそわする、気分不快、胸に違和感がある、胸が痛いなど様々です。脈を診れば、完全に不規則になっていますが、脈拍が早い場合などは判断が困難です。心房細動は、正しく診断され、正しく治療されれば恐れるに足らない不整脈です。けれども、正しく治療されないと、心不全や脳梗塞を起こすやっかいな不整脈でもあります。心房という心臓の上の部屋が細かく振動し、その電気信号が不規則に心室という下の部屋に伝わります。このため、心臓の収縮は不完全に、不規則に行われ、心臓から駆出される血液は正常時と比べて約20%低下します。 これが、早い脈拍で繰り返されると、心臓から駆出される血液量は減り、心臓の手前の臓器(肺、下肢静脈など)に血液がうっ滞します。その結果、息苦しくなったり、足がむくむなどの症状がおきます。これが心不全です。心房は本来、規則的に収縮して血液を心室に押し込むのですが、心房が細かく振動してしまうと、血流が滞り、心房に血栓という血液の塊を作ります。これが他の臓器に飛んでしまい、血管を閉塞すると、脳梗塞や他の臓器の塞栓症が生じてしまいます。ですから、高血圧やストレスの強いかた(多忙で睡眠時間の少ないかたなども)で、上記のような症状を感じた場合は、専門医の診察を受けて頂きたいと思います。
●心臓弁膜症とは
健康診断の聴診で、心臓に雑音があると言われたら、問題のない雑音(機能性雑音)であるのか、実際に心臓弁膜症が存在するのかを心臓超音波検査(心エコー検査)で評価します。動脈硬化病変が心臓弁に及んだ場合、弁の開放が制限されて血液の通過が妨げられる事があります。特に、大動脈弁という血液を駆出するポンプである左心室と大動脈を仕切る弁に開放制限が生じた場合を大動脈弁狭窄症といいますが、進行し、胸痛や失神、めまい、呼吸苦などの症状が出現する前に、心エコー検査を用いて、専門医により正しく評価する必要があります。人口の高齢化に伴い、大動脈弁狭窄症の患者数が増加しております。症状出現後の死亡率が高い疾患ですが、治療(弁置換手術あるいはカテーテルによる治療)により生命予後は著明に改善します。また、動脈硬化により弁が変形し、弁の閉鎖が妨げられる場合を大動脈弁閉鎖不全症といい、一旦左心室から大動脈へ送り込まれた血液が、逆流して心臓に戻ってきます。これも、程度が軽ければ特に症状はありませんが、時間と伴に逆流量が増加する傾向があり、正しい評価と定期的な経過観察が必要です。大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症は、動脈硬化がなくても発症することがあります。大動脈弁は、正常では3つの弁尖という扉で構成されていますが、これが先天的に2つしかない場合(大動脈二尖弁)があり、弁膜症の原因となります。年齢的には40-50歳頃に手術が必要になることが多いので、早めに診断と経過観察が必要です。左心房と左心室を仕切る弁が僧帽弁です。昔は、リウマチ熱という感染症の後遺症で、僧帽弁膜症(リウマチ性弁膜症)を発症することが多かったのですが、最近は動脈硬化によるものや、弁および弁周囲組織の変性により生じた僧帽弁逸脱症による僧帽弁閉鎖不全症の頻度が多くなっています。また、右側の心臓の負荷により、三尖弁閉鎖不全症や下肢の浮腫が出現することがあります。いずれも、定期的に診察を受け、心臓超音波検査で逆流の程度、心臓の大きさ、収縮機能などの変化を診ていく必要があります。
「循環器内科って何を診る科ですか?」と良く聞かれます。一度でも心臓病を患った患者さんであれば、ある程度イメージを持っておられると思いますが、一般的には「謎の科」と思われているようです。「循環器内科」を、「心臓・血管内科」と言い換えれば少し具体化するでしょうか。
そう、「全身に血液を"循環"させるために必要な"臓器"」を対象にする科なのです。
ポンプの働きをする心臓、血液を各臓器に分配(動脈)し、回収(静脈)するパイプである血管が主な治療の対象です。けれども奥はとっても深いのです…。
●動脈硬化の原因と生活集患病
動脈は臓器に血液を分配するただのパイプではありません。心臓が収縮して血液が送り込まれたら、それを柔軟に受け止めて拡張し、心臓が拡張して血液が送り込まれないときは、弾性力で収縮して末梢に
血液を分配します。これを動脈の"ふいご"機能と呼びます。この血管の機能はとても大切で、血圧を適切な値に保ち、心臓に過剰な負荷をかけないように調節してくれています。ところが、動脈硬化によって、血管が硬くなると、この"ふいご"機能が失われ、心臓から血液が送り込まれても血管は拡張出来ず、結果として収縮期血圧(上の血圧)は上昇し、心臓に負担がかかります。さらに、心臓の拡張期に血管は硬くて収縮出来ず、拡張期血圧(下の血圧)は低下し、臓器への血流量が低下して臓器虚血を招きます。
血管が硬くなる動脈硬化の現れ方は、初期は血管の弾性が失われることで始まりますが、進行すると、血液の通る内腔が目詰まり(血管狭窄や閉塞)したり、血管が瘤のように膨らんだり(動脈瘤)することもあります。また、後述しますが、心臓の弁に動脈硬化が進行すると、弁の開放が制限(弁狭窄症)されたり、弁の閉鎖が障害(弁閉鎖不全症、弁逆流症)されたりします。動脈硬化の原因(危険因子)として、生活習慣病である、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)、喫煙、ストレス、肥満、慢性的な睡眠不足、過食などが知られています。これらをしっかりとコントロールすることで、狭心症や心筋梗塞だけではなく、脳卒中も予防することができます。
血圧は、原則として、いつ測定しても、上は130mmHg未満、下は85mmHg未満が基準値です。年齢や既往症により目標値は若干異なります。高血圧症の隠れた原因として、不眠症や睡眠時無呼吸症候群があり、いびきや居眠りが多いかた、肥満のかたは、まずは睡眠時無呼吸症候群の簡易検査をお勧めします。
血糖は、空腹時で126mg/dl未満、食後でも200mg/dl未満、HbA1cは、新しい基準で6.4%以下、古い基準で6.0%以下が正常です。糖尿病は早期から介入したほうが経過が良好です。コレステロール(脂質)に関しては、LDL-C(悪玉コレステロール)は140mg/dl未満が正常、HDL-C(善玉コレステロール)は40mg/dl以上が正常、TG(中性脂肪)は150mg/dl未満が正常値とされています。循環器内科医の立場では、LDL-C(悪玉コレステロール)の値は、程度はありますが、低いほど安心と考えます。
最近、食事中の脂肪酸の質に注目し、イコサペント酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)といった主に魚介類に多く含まれる脂質が虚血性心疾患等の発症予防に対して高い効果があることがわかってきました。特にEPAは血管に作用し、動脈硬化の進展抑制に大きく関与していると言われています。EPAとは対照的に、主に牛肉や豚肉などに多く含まれる脂質にアラキドン酸(AA)があります。AAは、過剰になると動脈硬化促進因子になることが知られています。この、EPAとAAはどちらも人類には欠かせない必須脂肪酸でありますが、体内では合成されず、経口摂取のみにて体内に取り込まれる脂肪酸です。最近は食文化の欧米化(ファーストフードなど)により、このEPAとAAのバランスが崩れ、AAに偏り、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化性疾患の原因になることがわかってきました。
当院では、採血によりEPAとAAの比率を測定し、食生活改善のアドバイスを行うことが出来ます。
喫煙は、すみやかに決意をしてやめるべきです。困難な場合は、医師と二人三脚で禁煙補助薬(チャンピックス®)なども 利用出来ます。喫煙の害については、「わかっちゃいるけど…」ですよね。それでも敢えて言わせてもらえば、肺気腫や肺癌などの呼吸器疾患や口腔、喉頭、食道、胃、膀胱などの癌や白血病の発症率を高める他、喫煙による一酸化炭素や活性酸素の発生により、血管壁を傷害します。
ストレスは、誰にでもあるものですが、受け止め方を間違えれば、上記全ての危険因子を上回るリスクになり得ます。交感神経が常に活性化した状態(心臓や血管に常にムチを打っている状態)にあるからです。私は、この部分を解消してさし上げるのも医師の仕事と心得ています。
当院では、以下の方法で全身の動脈硬化の程度判定を行うことが出来ます。
下肢の血圧を上肢の血圧と比較することで、足の動脈硬化の程度を診断する検査(ABI検査)
血管の伸展性(硬さ)を脈波伝播速度で判定する検査(baPWV検査)
脳梗塞の原因になる、頸動脈の動脈硬化の程度を診る検査(頸動脈エコー検査)
運動負荷により冠動脈の動脈硬化の可能性を診る検査(運動負荷心電図検査)
高感度CRP、アディポネクチン、ホモシステインなど動脈硬化の指標となる採血検査(自費検査)
●虚血性心疾患とは・・・
臓という筋肉の塊が、休むことなく働き続けるためには、栄養の絶え間のない供給が必要です。
その栄養を供給している血管を、冠状動脈と呼びます。エンジンにガソリンを供給しているとても大切なパイプですね。この血管が動脈硬化によって目詰まりを起こしかけたらどうでしょう?
運動中に胸痛や胸部圧迫感を自覚するようになります。これが、背中や肩、くび、歯の痛みであることがあります。これが狭心症です。この時点で、すみやかに循環器専門医を受診し、医師の診断を受けるべきです。
栄養不足に陥った心臓の筋肉は、十分な仕事をすることが出来なくなり、ポンプの機能が低下し、不整脈の原因にもなります。血管が完全に詰まってしまったら、安静時にも20分以上持続する胸痛が出現し、肩や背中、頚部などへの放散痛を伴うこともあります。これが心筋梗塞です。
一方、安静時、特に就寝中や強いストレスを受けた後に狭心症がおこることがあります。喫煙者やアルコール飲酒後に多い傾向がありますが、不安感の強い方にも生じることがあります。これは、冠状動脈が痙攣をおこすことで心臓の筋肉が血液不足に陥り、悲鳴をあげた状態です。これが冠攣縮性狭心症です。動脈硬化とは無関係に生じることもあります。専門医の診断により、すみやかな対応が必要です。
これらの冠状動脈に生じる疾患を総称して、虚血性心疾患と呼びます。
●脈の乱れについて
心臓が正常に作動するためには、適切な心拍数と規則正しいリズムが必要です。心拍は極端に遅すぎても(徐脈)ダメですし、速すぎても(頻脈)いけません。若い人や、マラソンや競技スポーツをしているかたは、除脈であることが多いですが、それ以外の方で、極端に徐脈傾向が強く、めまい、ふらつき、気分不快、失神、むくみなどの症状がある場合は、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈の可能性があり、すみやかに専門医を受診する必要があります。
頻脈による動悸症状が、特に誘因(運動、精神的な動揺など)なく出現する場合も、精密検査が必要です。貧血、発熱、脱水、甲状腺機能亢進症、栄養不足など、原因を治療すれば改善できるもの(洞性頻脈)や、専門的な治療が必要な頻拍性不整脈(発作性上室性頻拍症、心房細動、心房粗動など)があります。
脈がとぶという症状の場合、多くが期外収縮といって、脈拍の規則性が突如失われて、"しゃっくり"のように不意に強く脈打つ現象ですが、症状の強さや、期外収縮が心臓のどこから発生しているのか、どのくらいの出現頻度かなどをホルター心電図検査などで調べてみる必要があります。また、背景に基礎心疾患がなければ、安心出来る場合も多く、心臓超音波検査で心臓の機能を評価します。
不整脈がおきて、心拍が大きく乱れると、心臓から駆出される血液が少なくなってしまいます。動悸、脈が飛ぶ、めまい、ふらつき、気分不快、失神などの症状のあるかたは、一度、心電図検査をお勧めします。またホルター心電図検査を行うと、一日の心拍数の変化や不整脈がどの時間帯で出現しているかなどを知ることができ、治療の必要性やタイミング、重症度などを知ることができて有用です。
特に中高年者で頻度が多く、注意すべき不整脈として、心房細動があります。この不整脈は、高血圧、高齢、心臓疾患の既往、ストレスなどによって頻度が増えます。症状は多彩で、脈が乱れる、胸がそわそわする、気分不快、胸に違和感がある、胸が痛いなど様々です。脈を診れば、完全に不規則になっていますが、脈拍が早い場合などは判断が困難です。心房細動は、正しく診断され、正しく治療されれば恐れるに足らない不整脈です。けれども、正しく治療されないと、心不全や脳梗塞を起こすやっかいな不整脈でもあります。心房という心臓の上の部屋が細かく振動し、その電気信号が不規則に心室という下の部屋に伝わります。このため、心臓の収縮は不完全に、不規則に行われ、心臓から駆出される血液は正常時と比べて約20%低下します。 これが、早い脈拍で繰り返されると、心臓から駆出される血液量は減り、心臓の手前の臓器(肺、下肢静脈など)に血液がうっ滞します。その結果、息苦しくなったり、足がむくむなどの症状がおきます。これが心不全です。心房は本来、規則的に収縮して血液を心室に押し込むのですが、心房が細かく振動してしまうと、血流が滞り、心房に血栓という血液の塊を作ります。これが他の臓器に飛んでしまい、血管を閉塞すると、脳梗塞や他の臓器の塞栓症が生じてしまいます。ですから、高血圧やストレスの強いかた(多忙で睡眠時間の少ないかたなども)で、上記のような症状を感じた場合は、専門医の診察を受けて頂きたいと思います。
●心臓弁膜症とは
健康診断の聴診で、心臓に雑音があると言われたら、問題のない雑音(機能性雑音)であるのか、実際に心臓弁膜症が存在するのかを心臓超音波検査(心エコー検査)で評価します。動脈硬化病変が心臓弁に及んだ場合、弁の開放が制限されて血液の通過が妨げられる事があります。特に、大動脈弁という血液を駆出するポンプである左心室と大動脈を仕切る弁に開放制限が生じた場合を大動脈弁狭窄症といいますが、進行し、胸痛や失神、めまい、呼吸苦などの症状が出現する前に、心エコー検査を用いて、専門医により正しく評価する必要があります。人口の高齢化に伴い、大動脈弁狭窄症の患者数が増加しております。症状出現後の死亡率が高い疾患ですが、治療(弁置換手術あるいはカテーテルによる治療)により生命予後は著明に改善します。また、動脈硬化により弁が変形し、弁の閉鎖が妨げられる場合を大動脈弁閉鎖不全症といい、一旦左心室から大動脈へ送り込まれた血液が、逆流して心臓に戻ってきます。これも、程度が軽ければ特に症状はありませんが、時間と伴に逆流量が増加する傾向があり、正しい評価と定期的な経過観察が必要です。大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症は、動脈硬化がなくても発症することがあります。大動脈弁は、正常では3つの弁尖という扉で構成されていますが、これが先天的に2つしかない場合(大動脈二尖弁)があり、弁膜症の原因となります。年齢的には40-50歳頃に手術が必要になることが多いので、早めに診断と経過観察が必要です。左心房と左心室を仕切る弁が僧帽弁です。昔は、リウマチ熱という感染症の後遺症で、僧帽弁膜症(リウマチ性弁膜症)を発症することが多かったのですが、最近は動脈硬化によるものや、弁および弁周囲組織の変性により生じた僧帽弁逸脱症による僧帽弁閉鎖不全症の頻度が多くなっています。また、右側の心臓の負荷により、三尖弁閉鎖不全症や下肢の浮腫が出現することがあります。いずれも、定期的に診察を受け、心臓超音波検査で逆流の程度、心臓の大きさ、収縮機能などの変化を診ていく必要があります。